■n(≧5)次元正多胞体の元素定理

 3次元では5種類の正多面体があるが,これらは互いに分解合同でない.しかしながら,3次元正多面体の元素数は5ではなく,4であることが既に確定している.

 4次元では6種類の正多胞体があるが,3種類の空間充填正多胞体(正8胞体・正16胞体・正24胞体は)を実際に共通の元素で構成することができたので4次元正多胞体の元素数は4となる.

 5次元以上では3種類の正多面体があるが,互いに分解合同でないことは既に確定している.しかし,以上の例から5次元空間における元素数は3であるという結論を導くのは早計であろう.

 3次元空間では2種類の立体(正八面体と正四面体)による空間充填ができ,さらに分割したものをうまく組み合わせると立方体ができた.任意のn次元で同じような状況を生ずるとも限らないし,実際,8次元空間で類似の充填形ができるのである.

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【1】5次元以上の正多胞体

 正2n胞体の二面角はつねに90°であるが,5次元以上の空間では正n+1胞体の二面角は

  cosδ1=1/n,sinδ1=√(n^2−1)/n

正2^n胞体の二面角は

  cosδ2=−(n−2)/n,sinδ2=(2√(n−1))/n

であり,二面角はnとともに増加しそれぞ90°,180°に近づく.

n       δ1     δ2     δ1+δ2

2 60.0001 90.0001 150

3 70.5288 109.471 180

4 75.5226 120 195.523

5 78.4631 126.87 205.333

6 80.406 131.81 212.216

7 81.7868 135.585 217.372

8 82.8193 138.59 221.41

9 83.6207 141.058 224.678

10 84.2609 143.13 227.391

11 84.7842 144.903 229.687

12 85.2199 146.443 231.663

13 85.5883 147.796 233.384

14 85.904 148.997 234.901

15 86.1775 150.074 236.251

16 86.4168 151.045 237.462

17 86.6278 151.927 238.555

18 86.8153 152.734 239.549

19 86.9831 153.475 240.458

20 87.1341 154.158 241.292

 二面角が4直角の整数分の1にならないのは,4次元において二面角がそれぞれ72°と120°よりも大きくなるからである.また,このことから5次元以上の空間では3種の正多胞体しかありえないことになる.

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【2】8次元の特殊性

 さらに,このことから5次元以上の空間で,正n+1胞体と正2^n胞体の二面角が2直角にはなるのは,

  δ1+2δ2=360°

の場合に限られることもわかるだろう.

  cos2δ2=(n^2−8n+8)/n^2

  sin2δ2=−4(n−2)√(n−1)/n^2

  cos(δ1+2δ2)=cosδ1cos2δ2−sinδ1sin2δ2==(n^2−8n+8+4(n−1)(n−2)√(n+1))/n^3=1

  n^3−n^2+8n−8=4(n−1)(n−2)√(n+1)

  n^2+8=4(n−2)√(n+1)

  n^2(n−8)^2=0

 すなわち,8次元においてδ1+2δ2=360°となるが,2種の二胞角で,その和が360°になり,空間充填形を構成できるのは,n≧5のときは8次元の場合だけである.

n       δ1     δ2     δ1+2δ2

2 60.0001 90.0001 240

3 70.5288 109.471 289.471

4 75.5226 120 315.522

5 78.4631 126.87 332.203

6 80.406 131.81 344.027

7 81.7868 135.585 352.956

8 82.8193 138.59 360

  arccos(1/8)+2arccos(−6/8)

 =arccos(1/8)+2π−arccos(1/8)=2π

となって,解析的にも確かめられた.

 8次元の場合だけ

  δ1+2δ3=2π

なる関係が成立し,

  17280×正単体+2160×正軸体→超立方体ではない亜正多面体

となる.この図形は8次元の平行面体(平行移動で面を貼り合わせて空間充填形になる)のひとつである.しかし,超立方体に再編されるわけではないので,n(≧5)次元正多面体の元素数は3であることが確定するのである.

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【3】結論

 このシリーズではこれまで直角三角錐(RT,RP,・・・)がn次元の正多面体の元素定理の本質をなしていることをつきとめた.3次元正多面体の元素定理でカギを握っているのが直角三角錐(RT:right tetra)であることに気づけば,任意のn次元でも直角三角錐が有用になると考えるのは自然な発想,自然な成り行きであろう.

 n次元の直角三角錐2^n個で正2^n胞体ができる.また,この図形n!個の体積は1辺の長さ2の正2n胞体(体積:2^n)と等しくなる.正2n胞体からはこの図形を2^n-1個を取り除くことができる.

[1]元素数の減少が起こる理由

 3次元では立方体から直角三角錐を4個取り除くと正四面体,4次元では正8胞体からRPを8個取り除くと16胞体になるため,元素数がひとつ減る.さらに,4次元の特殊性として192個のRPから正24胞体が構成されるため,もうひとつ元素数は減るのである.

[2]元素数の減少が起こらない理由

 5次元以上の空間では直角三角錘を2^n-1個を取り除くと正多面体にならず,1種の準正多面体になる.また,2次元では正方形から直角三角形を2個取り除くと何も残らない.これが各次元における元素定理の正体なのである.

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