■8次元正単体α8と正軸体β8による空間充填形

 一松信先生に「8次元正単体α8と正軸体β8による空間充填形」について補講していただくことになったので,紹介したい.

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【1】8次元正単体α8と正軸体β8による空間充填形

 二胞角は正単体α8がarccos1/8(82°ほど),正軸体がarccos−3/4(139°ほど)で,

  arcocs(1/4)+2×arcocs(−3/4)=2π

になります.超立方体γ8の90°とは直接関係なさそうです.

 この充填形では各頂点に17280個の正単体と2160個の正軸体が相会しています.実はこの充填形は個々の素片を並べて考えるよりも,対局的に八元整数(ケイリー数の整数)全体のなす格子点をうまく結ぶと,この形の充填形ができることを明記したのが,コクセターの論文:

  Integral Cayley Numbers

  Duke Mathematical Journal, 13(4), 1946

です.彼の選集

  Twelve Geometric Essays (Southern Illinois Univ Press, 1968

に再録されています.

 八元数の表現はいろいろの流儀があり,コンウェイの本「四元数と八元数」(培風館)の記号とも違います.そして内容は大半が八元数の代数的な話ですが,目標は"not easy to prove"という命題:

  任意のケイリー数Xに対して,ノルム(距離の2乗):N(X−G)≦1/2であるケイリー整数Gがある

 これは長らく懸案の課題でしたが,コクセターが図形的に,八元整数全体のなす格子は8次元の正軸体と正単体による空間充填形になっていることを示したので,上記の命題はほぼ自明の事実になりました.「抽象数学」の全盛時代に図形的直観が難問をあっさり解決した例として,当時評判になったようです.

 この格子で特定の1点(原点)からの距離が√nである格子点の個数が

  240σ3(n)   (nの約数全体の3乗の和)

であることや8次元の球の最密充填が1点のまわりに240個で,それがこの形の格子で実現される(しかも本質的に一通り)などもわかっております.

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【2】ケイリー整数とE8格子

 8次元のこの格子(E8格子と呼ばれる)の格子点はおおざっぱにいうと,次のような点から成り立ちます.

  1)座標がすべて整数値の点

  2)座標がすべて半整数値の奇数倍の点

  3)4個が整数値,4個が半整数値の奇数倍の点

 ただし,3)においてその4個は全8個からの4個の組み合わせ8C4=70組のうち,特定の14組に限る.具体的には実数部をe0,虚数部をe1−e7とするとき,ei,ej,ekのうち積の結合法則ei・(ej・ek)=(ei・ej)・ekがが成立する(i,j,k)の3つ組が7組あり,その組に実数の0番を加えた(0,i,j,k)7組とその補集合7組の合計14組とする.

 「八元整数」を作るにはこのままでは不備がありますが,充填図形としてはこのままで問題ありません.たとえば,最近距離1の格子点には

  (±1,0,・・・・・,0)の置換16個

  (±1/2,±1/2,±1/2,±1/2,0,・・・,0)の型14×16=224個,合計240個.

 次の距離√2の格子点は

  (±1,±1,0,・・・・・,0)の置換8C2×2^2=112個

  (±1/2,±1/2,±1/2,±1/2,±1,0,・・・,0)の型14×16×4×2=1792個

  (±1/2,±1/2,±1/2,±1/2,0,・・・,±1/2)の型2^8=256個,合計2160個=240・(1^3+2^3)個となります.

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【3】まとめ

 この格子には座標を回転した形でまったく別の表現もあります.コンウェイはむしろその方を扱っているようです.しかし,充填形として考える場合どちらがわかりやすいかは疑問です.

 ただし,どうも格子の話が主で,正軸体と正単体がどのように配列されているのかは見やすくありません.原点を1頂点と考えると上述2160個各々の対頂点で,両者の垂直二等分面上に(原点からの距離1),他の14個の頂点があります.これら正軸体の中間を正単体が埋めている形です.

 ところで,ここでで述べたE8の亜正多面体の体積は正しいのですが,あの図形が空間充填形になるように思ったのは錯覚であって,単独で8次元空間の充填形になるのは格子のボロノイ領域です.この図形は8次元の平行面体(平行移動で面を貼り合わせて空間充填形になる)のひとつで,17280個の正単体の1/9(ひとつの頂点が最も近い部分)と2160個の正軸体の1/16(ひとつの頂点が最も近い部分)から成り立ちます.その体積は

  正単体の体積3/2^48!×1/9×17280=1/112

  正軸体の体積2^4/8!×1/16×2160=6/112

の合計(1+6)/112=1/16で,案外簡単な数になります.

 このように述べてもイメージが十分涌かないかもしれません.8次元という高い次元の難しさでしょう.以上,8次元のα8とβ8による空間充填形について述べましたが,これがご研究に役立てば幸甚です.

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