■デーン不変量と二面角の幾何学(その31)

 「4次元正多胞体の元素定理」を投稿しようとしていた矢先,論文の内容に自己矛盾がみつかった.

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【1】4次元デーン不変量の自己矛盾

  4次元デーン不変量=f(二胞角,二面角)

と定義して,二胞角の有理数係数についての独立性に加えて,境界多面体の二面角の独立性を調べてみると,

      二胞角   二面角

5胞体    A     C

8胞体    B     D

16胞体   B     C

24胞体   B     C

120胞体  B     E

600胞体  A     C

となって4種類の組み合わせ(AC,BD,BC,BE)ができる.このことから,4次元正多胞体の元素数は≧4であると評価される.ところが,

[1]8胞体・16胞体・24胞体の直積はそれぞれBD・BC・BCである.すなわち,これら3つの立体の元素数は2以上.

[2]しかるに,8胞体・16胞体・24胞体はどれもRPから構成できる.すなわち,これら3つの立体の元素数は1.

 [1]と[2]は矛盾するというわけである.4次元のデーン不変量はよくわからない!

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【2】空間充填の必要条件との関係

 多面体Pに対し二面角をδiとすると,デーン不変量δ(P)はすべての辺で二面角の和をとり,mod πで還元したものとして定義される.

  δ(P)=Σnδ   (mod π)

 3次元正多面体の場合,δ4+δ8=π,δ6=π/2であるから

  N1δ4+N2δ12+N3δ20≠0  (mod π)

とより簡潔に書くことができる.これは,デーンの定理(1901年)

  N1δ4≠0  (mod π)

の一般化に他ならない.

 これか証明されたことから,3次元正多面体の元素数は≧4であるという結論が主張できた.

 ところで,空間充填の必要条件は,一辺の回りの二面角の和が360°となることである.

  Σnδ=2π

これはデーン不変量を強めた(弱めた?)ものであることがわかるだろう.

 そこで,空間充填の面から正多胞体の元素定理をみてみることにしよう.3次元の一種類の合同な正多面体による空間充填では立方体だけが空間充填形なのであるが,もし2種類以上を使ってよければ,正四面体と正八面体の二面角が互いに補角であるから,両者を組み合わせて空間充填が可能になる.正多面体同士の組合せでは,正四面体と正八面体を組み合わせたものだけが空間を充填するのである.

[1]単一種による空間充填の例

[2]複数の種類による空間充填例

[3]非空間充填例

と分類すると,3次元では

[1]立方体

[2]正四面体+正八面体

[3]正12面体,正20面体

の4群,4次元では

[1]8胞体,16胞体,24胞体(これらはどれもRPから構成できる)

[2]なし

[3]5胞体,120胞体,600胞体

の4群,5次元では

[1]10房体(5次元立方体)

[2]なし

[3]6房体(5次元正四面体),32房体(5次元正八面体)

の3群となって,一応のつじつまが合う.これで自己矛盾は克服できたか?

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 超立方体は各次元で空間充填形[1]である.[2]の空間充填形として2種の胞間の角の和が360°になるのは,n≧5のとき,8次元の

[1]8次元立方体

[2]8次元正四面体+8次元正八面体

[3]なし

の場合だけであることがわかっている(この場合は2群であるから,元素数2以上).

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