■縮小三角形の問題

 三角形ABCの各辺を1:λの比に順次内分した点D,E,Fとし,AD,BE,CFの2本ずつの交点が作る三角計PQRを仮に「縮小三角形」と呼ぶことにする.

 正三角形の縮小三角形は正三角形であるが,中川宏さんの研究は任意の三角形の縮小三角形がもとの三角形と相似になる場合の問題である.かなり面白く,数セミ・ノート欄に投稿してもよいような内容である.

 一松信先生はこの問題を「重心座標」を使って計算されたそうであるから,小生も

  [参]一松信「現代に活かす初等幾何入門」岩波書店,p10

を参考にしながら計算を試みたのであるが,重心座標系での相似形をどう表現するのかわからない.そこで,一松信先生に解説をお願いすることにした.

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【1】縮小三角形がもとの三角形と相似になる場合

[Q]縮小三角形がもとの三角形と相似になることがあるか? あるとすればどのような場合か?

 中川宏さんはλ=2で,三角形は直角三角形の場合を扱っているが,ここでは少し一般化し,λを1より大きい定数,三角形を任意の三角形として論じることにする.一松先生の結論を先にいうと

[A]同じ向きに相似になるのは正三角形のときに限る.裏返しに相似になるのはパラメータa,b,c,λの間に特別な関係がある場合である.たとえば,λ=2のときは正三角形の半分(3辺の比が1:√3:2)のときがその一例である.

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【2】証明

 以下,その証明をするが,重心座標による証明が簡便なので,それを使う.

[1]主要な点の重心座標はD(0,λ,1),E(1,0,λ),F(λ,1,0)

直線AD,BE,CFの方程式はそれぞれy/λ=z,z/λ=x,x/λ=y.これらの交点としてP(λ,1,λ^2),Q(λ^2,λ,1),R(1,λ^2,λ)   (いずれも重心座標の比のみ)

 ΔPQRの面積/ΔABCの面積=[λ,1,λ^2]/(λ^2+λ+1)^3

                 [λ^2,λ,1]

                 [1,λ^2,λ]

=(λ−1)^2/(λ^2+λ+1)

   λ=2なら1/7,λ=3なら4/13

  [参]清宮俊雄「幾何学」科学新興新社,p11

     コラム「三角形のn等分(その2)」

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[2]ΔPQRの辺の長さは重心座標の長さの公式から次のようになる.

  PQ^2=1/(λ^2+λ+1)^2×[λ−λ^2,1−λ,λ^2−1]のノルム

 =(λ−1)^2/(λ^2+λ+1)×[−λ,1,λ+1]のノルム

 =(λ−1)^2/(λ^2+λ+1)×[a^2(λ+1)+b^2λ(λ+1)−c^2λ]

 同様に

QR^2=(λ−1)^2/(λ^2+λ+1)×[−a^2λ+b^2(λ+1)+c^2λ(λ+1)]

RP^2=(λ−1)^2/(λ^2+λ+1)×[a^2λ(λ+1)−b^2λ+c^2(λ+1)]

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[3]ΔPQRがΔABCと相似とすると,面積の関係から長さの相似比は   (λ−1)/√(λ^2+λ+1)

である.したがって,PQ^2,QR^2,RP^2は

  a^2,b^2,c^2/(λ^2+λ+1)

のいずれかに等しくなる.すなわち,共通因子を除いて,分子の[・・・]の内の量が

  (a^2,b^2,c^2)(λ^2+λ+1)

のいずれかに等しくなる.

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[4]その形で方程式を作るが,同じ向きに相似なとき,それぞれの辺が最も近い辺に比例すると仮定すると

  a^2(λ+1)+b^2λ(λ+1)−c^2λ=a^2(λ^2+λ+1)

  −a^2λ+b^2(λ+1)+c^2λ(λ+1)=b^2(λ^2+λ+1)

  a^2λ(λ+1)−b^2λ+c^2(λ+1)=c^2(λ^2+λ+1)

→−a^2−λb^2+(λ+1)c^2=0

  (λ+1)a^2−b^2−λc^2=0

 −λa^2+(λ+1)b^2−c^2=0

3式を加えると,両辺とも同じ(a^2+b^2+c^2)(λ^2+λ+1)になるので,この3式は独立ではなく,a=b=cを得る.

 右辺を巡回置換してもいずれも同様に計算してa=b=cに達する.すなわち自明な正三角形の場合以外にはあり得ない.

 裏返しに相似なとき,上述のPQ^2,QR^2,RP^2の式はそのままにして,第2式,第3式の右辺のb^2,c^2を入れ換える.

第1式→−a^2−λb^2+(λ+1)c^2=0

第2式は右辺がc^2(λ^2+λ+1)であるから,整理すると

  a^2+λb^2−(λ+1)c^2=0

となるが,これは第1式と同値である.

第3式は右辺がb^2(λ^2+λ+1)であるから,整理すると

  −a^2−λb^2+(λ+1)c^2=0

となって,これも第1式と同値である.

 すなわち,この場合には相似条件式が同一の条件

  a^2+λb^2−(λ+1)c^2=0

になる.もちろんa=b=cはこれを満足するが,それ以外にも多数の解がある.そしてそれが必要十分条件であり,実際に縮小三角形がもとの三角形と裏返しに相似になる.

例:λ=2のとき,a=1,b=2,c=√3(正三角形の半分)

同様にa,b,cを巡回置換すれば

  −(λ+1)a^2+b^2+λc^2=0

  λa^2−(λ+1)b^2+λc^2=0

という場合が生ずるが,これは単にa,b,cの順序を変えた(三角形を回した)ものにすぎない.

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