■共線定理と射影幾何学

 サム・ロイドのパズルに「コロンブスの卵」と呼ばれるものがある.

[Q]テーブルの上の9個の卵を使って直線上に3個の卵が並ぶ列を最大何列作ることができるか?

[A]3×3に並んでいる状態だと8列あるが,中央の列の卵を内側に少し寄せて王の字にすると,1列3個からなる列を10列作ることができる.

[Q]3×3に並んでいる9個の卵をすべて通る連続線を引き,その方向転換の数を最小にせよ.

[A]9個の卵が4本の連続直線(3回の方向変換)でつながる.

 とくに前者は9点が3点ずつ10本の直線上に配列されているが,おそらく共線・共点定理の研究からであろうと思われる.

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【1】共線定理

 3点あるいはそれ以上の点が一直線上にあることを主張する定理は共線定理と呼ばれます.デザルグの定理やパップスの定理が共線定理の例ですし,あるいは三角形の外心と重心と垂心はその順番に一直線上に並んでいて,外心と垂心を結ぶ線分が重心によって1:2に内分されています.この共線はオイラー線と呼ばれています.

 ここでは,パスカルの定理とニュートンの定理を紹介します.パスカルもニュートンも,少年時代はみんなパズルずきの幾何少年だったのです.

<ニュートンの定理>

四辺形ABCDの2組の対辺の延長の交点をE,F,対角線BDの中点をL,対角線ACの中点をM,線分EFの中点をNとすれば,3点L,M,Nは一直線上にある.

<パスカルの定理>

円錐曲線,すなわち楕円,双曲線,放物線に内接する任意の六角形の三組の対辺の交点は同一直線上にある.

 パスカルはこの有名な定理をわずか17才の時に発見したのですが,これは射影幾何学の基本定理の一つになっています.射影幾何学とは,長さや角の大きさに無関係に,例えば,いくつかの点がある直線上にあるといった関係,射影によって不変な図形の性質,を研究する学問です.パスカルの定理の重要な系が「円錐曲線は任意の5点で一意に定まる」です.

 2次曲線は円(e=0)として生まれ,楕円に育ち,放物線(e=1)で相転移して双曲線になる.漸近線のなす角度は最初鋭角だがだんだん大きくなり,180°になった時点(e=∞)で虚領域に入る.そして再び円に生まれ変わる.楕円の面積は有限,放物線の面積は∞,この考え方を延長すると双曲線の面積は虚数ということになる・・・というのがケプラーの原理ですが,射影平面上では,円錐曲線はただ1種類しかなく,双曲線・放物線・楕円などの区別はなく,どれも同種の曲線となります.

 また,射影平面上では点という語と直線という語を入れ替えても定理は成り立っています.これをポンスレーの双対原理と呼び,射影幾何学の最も美しい特質です.

 パスカルの定理から150年以上たって,その双対にある共点定理「円錐曲線の外接する6辺形の対角線は1点で交わる」が発見されたのですが,それがブリアンションの定理です.

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【2】射影幾何学におけるパップスの定理とパスカルの定理

[1]パップスの定理

 直線上に3点A,B,C,もう一つの直線上に3点A’,B’,C’をとる.AB’とA’Bの交点をP,BC’とB’Cの交点をQ,AC’とA’Cの交点をRとするとき,P,Q,Rは同一直線上にある.

 すなわち,2直線上にすべての頂点がのっている6角形の反対側の位置にある辺同士の交点は同一直線上にあるというのが,射影幾何学におけるパップスの定理である.

 パスカルの定理「円錐曲線すなわち楕円,双曲線,放物線に内接する任意の六角形の三組の対辺の交点は同一直線上にある.」は円錐曲線が既約でない場合にも成り立つといわけで,これを発見したのもパップスである.直線は無限半径をもつ円であるが,2本の直線からなる退化した円錐曲線を考えれば容易にこの定理にたどりつくであろう.パップスの定理はパスカルが2次曲線について発見した定理の特別な場合になっているので,パスカル・パップスの定理ともいわれる.

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【3】有限射影平面(パップスの配置とファノの配置)

 パップスの配置には9個の点と各々3つの点をもつ9本の直線が含まれています.それに対して,ファノの配置は7つの点,各々3つの点をもつ7本の「射影直線」よりなり,このことが射影平面の双対性と結びついてきます.さらに,一般に有限射影平面についてち述べておきましょう.

 1本の直線上にn個の点があるアフィン平面をn次のアフィン平面と呼びます.有限アフィン平面Fq×Fqは

  {(x,y)|ax+by=c,a,b,c,x,yはFqに属する}

で定義されるものです.n次のアフィン平面では1点を通る直線はn+1本で,n^2個の点がありますから,全部で

  n^2(n+1)/n=n(n+1)

本の直線があります.

 最も簡単な有限アフィン平面はZ2×Z2で,4個の点を四面体状に結んだものです.また,n次のアフィン平面上では平行な直線はn本あり,平行な直線同士を集めた組がn+1組あります.

 アフィン平面では平行な直線が存在しましたが,しかし,すべての直線が交点をもつとしても矛盾を生じない幾何学の体系を考えることができます.アフィン平面に無限遠点,無限遠直線を加えて完備化すると射影平面が得られますが,完備化により点の数がn+1個,直線が1本増えます.したがって,n次射影平面における点の数はn^2+n+1,直線の数もn(n+1)+1=n^2+n+1で等しくなります.いいかえれば有限射影平面では各直線にn+1個の点を含み,各点を通ってn+1本の直線が引けることとなります.

 これを

  q=n^2+n+1

とおきますが,たとえば,2次の射影平面は7つの点,7本の直線よりなり,このことが射影平面の双対性と結びついてきます.

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 最も簡単な射影平面は,有限体Z2上の2次元射影幾何であって,ファノ平面と呼ばれています.そして,7個の点p1〜p7を(1〜7)と略記することにして,例えば,7本の直線上の3点の組を(1,2,3),(1,4,5),(1,6,7),(2,4,6),(2,5,7),(3,4,7),(3,5,6)の7組の体系は射影幾何の公理系を満たすことになります.

 そして,q行q列の行列A={aij}を

  aij=1・・・直線liが点pjを通るとき

     0・・・そうでないとき

と定めると,成分が0か1の行列を得ることができます.

    [1,1,1,0,0,0,0]

    [1,0,0,1,1,0,0]

    [1,0,0,0,0,1,1]

  A=[0,1,0,1,0,1,0]

    [0,1,0,0,1,0,1]

    [0,0,1,1,0,0,1]

    [0,0,1,0,1,1,1]

 この結合組の例では対称行列になりましたが,一般的には対称行列とはなりません.また,この行列では,各点は3本の直線に含まれるので,各行には1が3回現れます.また,各直線は3個の点を通るので,各列にはやはり1が3回現れます.そして,すべての成分が1である行列をJとすると,行列Aは

          [3,1,1,1,1,1,1]

          [1,3,1,1,1,1,1]

          [1,1,3,1,1,1,1]

  A’A=AA’=[1,1,1,3,1,1,1]

          [1,1,1,1,3,1,1]

          [1,1,1,1,1,3,1]

          [1,1,1,1,1,1,3]

        [3,3,3,3,3,3,3]

        [3,3,3,3,3,3,3]

        [3,3,3,3,3,3,3]

  AJ=JA=[3,3,3,3,3,3,3]

        [3,3,3,3,3,3,3]

        [3,3,3,3,3,3,3]

        [3,3,3,3,3,3,3]

となります.A’は直線と点を入れ替えた双対射影平面です.

 ここでは2次の射影平面の場合でしたが,n次の射影平面の場合,対角成分はn+1となります.対角成分はpiを通る直線の数,非対角成分はpi,pjを通る直線の数を表しているというわけです.

 射影幾何学の有名な定理:デザルグの定理やパップスの定理は有限射影平面でも成立します.なお,n=4k+1,4k+2の場合にn次の射影平面が存在すれば,

  n=x^2+y^2

となる整数が存在するということも証明されています.このことから(nは5,7,9にはなりうるが)n=6,14,21,22,・・・の場合,n次の射影平面が存在しないことがわかります.

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