■量子論の確立と大統一理論

 (その3)では力の概念,重力場の概念を見てきた.それに対して(その1)(その2)では量子論が量子数という数に還元されることを述べた.力の概念が一体何を意味しているのかについてはわかっていない.今回のコラムでは力の概念を数に還元するという,物理学に残された課題についてみていきたい.

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【1】ゲルマンの八道説

 核物理学は中性子Nと陽子Pが結合して原子核をつくる機構を研究するものです.核の中では(重力を無視すれば)3つの力が働いていて,強い力はNまたはPを互いに結びつける,電磁相互作用はP相互間の反発力,弱い相互作用は不安定核のβ崩壊を引き起こす力となっています.

 強い相互作用をする素粒子はハドロンと呼ばれますが,強い相互作用をするすべての粒子はクォークからできていると仮定するとうまく説明できる実験事実があり,重粒子(バリオン)は3つのクォークから,中間子(メソン)は2つのクォークからなるものと考えられています.

 また,アイソスピン以外にも強い相互作用で保存し,弱い相互作用では保存しないような量が存在するのですが,その1つがハイパーチャージです.強い相互作用はアイソスピンとハイパーチャージの保存によって特徴づけられるのですが,横軸にアイソスピン,縦軸にハイパーチャージをとり,対応する粒子を平面上にプロットすると正六角形を描くとなるというのが八道説です.

 かなり前のことになるのですが,初めてクォークに関する本を読んだとき,8種類の素粒子を六角形のパターン上に配置した図に眼を奪われた記憶があります.そのときはまったく理解できなかったのですが,陽子や中性子など原子核を構成する基本粒子族であるバリオン8重項(Qは電荷,Sはストレンジネス)がかの有名な「八道説」のダイアグラムであり,この六角形はA2型のルート系とまったく同じものです.

 このような対称性はSU(3)対称性を物語っていて,SU(3)のリー代数として定義されるものです.そしてSU(3)の8次元表現の基底に対応させることによって対称性を論じる方法をゲルマンとネーマンの八道説というわけです.1961年,八道説が発表された当時にはまだ発見されていない粒子が空席として残されていたのですが,1964年,Ω-粒子の存在が確認されたことによってダイアグラムの空席は埋められ,予言は見事に的中しました.それ以来,リー群の理論は物理学者とくに素粒子論研究者の不可欠の道具になっています.

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【2】SU(3)とゲルマン行列

 SU(3)は行列式が1の3×3ユニタリー行列のなす群です.λiをその基底とすると,それらはエルミート行列にとることができて,トレースが0の3×3エルミート行列になります.トレースが0の制限は行列式が1という条件からくるものです.

 標準的な基底はゲルマンのλ行列で与えられます.

  λ1 =[0,1,0] λ2 =[0,−i,0] λ3 =[1,0,0]

     [1,0,0]    [i,0,0]     [0,−1,0]

     [0,0,0]    [0,0,0]     [0,0,0]

  λ4 =[0,0,1] λ5 =[0,0,−i] λ6 =[0,0,0]

     [0,0,0]    [0,0,0]     [0,0,1]

     [1,0,0]    [i,0,0]     [0,1,0]

  λ7 =[0,0,0]  λ8 =1/√3[1,0,0]

     [0,0,−i]        [0,1,0]

     [0,i,0]         [0,0,−2]

 これらのうちでλ1,λ2,λ4,λ5,λ6,λ7は非対角行列であり,σx,σy,σzに新たな行と列をつけ加えたものになっています.とくにλ1,λ2,λ3の3つはSU(3)の中でアイソスピン部分群と呼ばれるSU(2)部分代数を生成します.

 一方,λ3,λ8は対角行列であり,互いに交換します.

  [λ3,λ8]=0

λ3と可換な基底がλ3以外に1つだけあり,それがλ8なのです.

 SU(2)の場合と同様に,基底として

  Tr(TiTj)=1/2δij

を満たすものを選ぶと,基底は

  Tj=λj/2

となります.また,パウリのスピン行列はアイソスピン行列γiと単位行列E2から構成されるものでしたが,ゲルマン行列の場合,E2に相当するものは

  λ0 =√2/3[1,0,0]

         [0,1,0]

         [0,0,1]

で与えられます.

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 SU(3)の場合,SU(2)のパウリ行列

  σx=[0,1]   σy=[0,−i]   σz=[1, 0]

     [1,0]      [i, 0]      [0,−1]

に対応するのがゲルマン行列であって,パウリのスピン行列に類似した8個の基底をもつのですが,一般にSU(n)のリー代数はトレース0の反エルミート行列からなり,それには線形独立なものがn^2−1個あります.

 SU(2)では3個の基底(1/2σi),SU(3)では8個の基底(1/2λi),

SU(6)では35個の基底からなるのですが,その内訳は

  8(1/2λ)+3(1/2σ)+8×3(1/2λσ)=35

となります.SU(mn)の基底は

  m^2−1+n^2−1+(m^2−1)(n^2−1)=(mn)^2−1

というわけです.

 SU(3)に対する議論はSU(2)の場合よりも少し複雑になるだけのことであって,3×3のユニタリー行列は8個の独立な基底の線形結合によって生成されます.また,SU(3)対称性については,2個の正規直交基底を決めてルートを図示すると,それは六角形のパターンに8種類の粒子を配置した有名な「八道説」のダイアグラムによって表現されることになるのです.

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【3】ゲージ理論と大統一理論

 物理の世界では,空間の構造の対称性を表すのにリー群がよく使われます.リー群は様々な現象の対称性を記述するための道具といっても差し支えないのですが,現在,リー群・リー代数は,素粒子物理学のゲージ理論,大統一理論において根本的な役割を果たしています.

 強い相互作用がSU(3)リー代数と関係づけられ,ユニタリー群の表現論が素粒子の対称性に用いられるようになった1959年以来,物理学者たちはより高い対称性の群を追求し始め,現在ではクォークの基本的運動状態をゲージ理論と呼ばれる理論で記述できるまでになりました.

 そして,粒子の対称性を表すSU(n)のようなリー群と統合させて,ヤン・ミルズ場の理論が提唱されたのですが,電磁場はとくに一番簡単なSU(1)すなわち絶対値1の複素数exp(iθ)全体からなる乗法群の場合に相当します.また,SU(5)はSU(3)とU(1)×SU(3)を含む最小の単純群であることから,すべての素粒子の相互作用はSU(5)にぴったりあてはまることもわかってきました.

 こうして,強い相互作用,弱い相互作用,電磁相互作用がひとつのリー代数に関係づけられ,大統一理論(GUT)としてまとめあげられています.現在の課題はなぜこのような性質のクォークがあるのか,その答えを求めるとともに,重力まで含めた統一的な世界像を模索している段階にあるのです.

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