■デルタ充填とジョンソン・ザルガラー充填(その19)

 今回のコラムでは(その18)を補足拡充しておきたい.

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 ジョンソン立体は全部で92種類ある.正多面体・準正多面体のリストアップは比較的簡単だが,ジョンソン立体のリストアップは簡単ではない.1966年,アメリカの数学者ジョンソンが全92種類を記した一覧表を発表し,それぞれに番号と名前を与えたが,これですべてだとの証明はされなかった.3年後の1969年,ザルガラーがコンピュータを駆使して,この一覧表が完全であることを証明した.

 ジョンソン立体の性質として

[1]面の種類は正三角形,正方形,正五角形,正六角形,正八角形,正十角形の6種類である.この性質はアルキメデス立体にも共通する.プラトン立体がもつ3種類の面(正三角形,正方形,正五角形)とそれらの辺を倍にしたものである.

[2]正六角形,正八角形,正十角形は最大1種類しか使われない.また,正2n角形が使われているときには,正n角形も使われている.この性質は準正多面体では成り立たない.

[3]対称性はcyclic(回転対称軸1本)か,dihedral(回転対称軸2本)である.これらは正多面体や準正多面体のtetrahedral/octahedral/icosahedralより低い対称性である.なお,アルキメデス角柱・反角柱の対称性はdihedralである.

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 プラトン立体とアルキメデス立体による空間充填を分類してみよう.

[1]プラトン立体のみによるもの・・・立方体,正四面体+正八面体

[2]アルキメデス立体のみによるもの・・・切頂八面体,

[3]プラトン立体とアルキメデス立体の組み合わせによるもの・・・切頂四面体+正四面体,切頂立方体+正八面体,切頂八面体+大菱形立方八面体+立方体,小菱形立方八面体+立方八面体+立方体

[4]アルキメデス立体とアルキメデス角柱(Archimedean prism:上下の底面が正多角形で,側面がすべて正方形であるもの)によるもの

[5]アルキメデス角柱のみによるもの

[6]ジョンソン立体のみのもの・・・J26

はともかくとして,プラトン立体やアルキメデス立体との組み合わせによるもの,すなわち,

[7]ジョンソン立体を含むもの

では,2回対称軸を軸方向に配置([100],[010],[001])する必要が生ずるものと思われる.

 実際,中川宏さんが発見したジョンソン・ザルガラー多面体J91が加わった空間充填では,J91の2回対称軸は軸方向に配置されているのである.

[補]J91は4個の正五角形面,2個の正方形面,8個の正三角形面をもつ双月形双円形体として知られており,菱形12面体と同じ2回回転対称性をもっています.J91の正三角形面を合わせるように繋いでいくと,立方体と正十二面体の隙間が現れます.すなわち,J91・立方体・正十二面体の3種類の立体で空間充填することが可能であることがわかったのですが,これまで知られていなかった空間充填例が見つかったことは奇跡的といってもよく,これこそ非常に単純だが深淵な数学的発見が今日なお可能である一つの例となっています.

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